2016年 05月 07日
エキセントリクス
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吉野朔実の訃報
ショックだった。
ジュリエットの卵はまだ読んでいないという不心得者だけど
すごくショックだった。
恋愛的瞬間もぼくだけが知っているも良かったが
少年は荒野をめざすよりも、
一番好きなのはエキセントリクス
もう、これは私の選ぶ漫画トップ3に入る。(ほかの2つ思いつかないけど)
あの昔に買った漫画の中で、ずっと持っている数少ない漫画の一つ。
とにかく完成度がものすごく、ものすごく高い、と思う。
絵の美しさも繊細さもセンスもだけど
不幸な子を創造するときに、その不幸さに理由をつけるために
不幸な生い立ちを想像するのではなくて、
世界と同一に普通に存在する不幸が、まともさや笑顔や恋愛や性や宗教の中に、一つとなっている
そんな感じの闇を描いていて見事だったと思う。
どっちがどっちだったのか、コウかテンかで友達と論議したものだが
(最初に突き飛ばしたのはコウ、最後のはテンだと思うと私は答えた。二人を見分けるヒラサカが病院のをコウと認識してるから)
それでも、この年になって思うのは、
最後にどっちでもよかったという彼(たぶんテン)のつぶやきこそ本当だということ
忘れることで生きようとあがく心も、追いかけてくる記憶には抗えず
最初は死ぬつもりでお願いをした彼女が、誰かを救おうと伸ばした手と共にそのまま死へ向かう。
電車の下へ。
このシーンの構図、入ってくる電車、線路の上に倒れるテン、握られた二人の手の交差のアングルとかが、あまりにも美しい。
彼女は一つとなったテンとコウと死んで、最初の出会いの時の「お願い」は成就された。
その時一つのうぶ声が上がる。
生と死のはざま、彼女を縛る母の闇も浄化されて、まっさらな命、存在となった。
彼女を死へ向かわせる気付きをもたらしたヒラサカ先生(ヨモツヒラサカ?)
そのまともな理性と考察、健全な思考回路を持った友人タクミに、まっさらな命は託される
...と、私は解釈している。
エキセントリクスは、作品そのものをそのままに、一つの完成された物語として感じさせる作品だ。
だから、本当は考察など意味はない。今まであえて私も手を出してこなかった。
↑は、考察ではなくて、読んで、感じたこと。
メッセージなどはない。
ただ存在するひとりの人間の存在と同じ、ひとつの物語そのもの
名作だ。
作品を思い返し、こうして文字にすることが追悼だと思って記事を書いた。
by wagta_il
| 2016-05-07 00:33
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